お祭りに行けない子ども、間違った子育てのツケを支払うことになるエホバの証人の親 / 元エホバの証人2世のいる場所

自分の家が普通ではないと気付く瞬間

私は、物心ついたときには既にエホバの証人2世だった。両親は異常に熱心なエホバの証人で、ものみの塔のために自分たちの生活すべてを投げ出していた。

父はあえてフルタイムの仕事を辞めて、エホバの証人活動がしやすい、時間に融通のきく不安定な職へ転職。母は正規開拓者と呼ばれるエホバの証人で、毎月100時間近く布教活動を行っていた。

私が、自分が普通の家の子どもではないと、最初に気づいたのは4才とか5才のとき。同じ団地の同じ年頃の男の子が、私をお祭りに誘いに来た。その男の子は空色のハッピを着て、うちわを持って私の家に来た。

「一緒にお祭りに行こう」と誘いに来てくれた。団地内の砂場で一緒に遊ぶ仲だったので、その延長。お祭りの前の独特の高揚感が、その子から伝わってきたのをよく覚えている。

何だか良く分からないが、楽しそうなので「うん」と、私も家を出ようとすると母に制された。「ダメだ」と、家の中に引きずり戻される。母は外に出て、一緒に来ていたその子の母親に何か理由を話しているようだった。

母に、「エホバの証人だからお祭りに行くのはダメだ」と言われ、私はこの時、初めて自分は普通の子どもと違うと気付くことになった。

エホバの証人は異教の行事すべてに参加することを禁止されている。地域のお祭りは、もとを正せば神社の祭礼であり、日本古来の神様へ五穀豊穣や健康繁栄を祈念するためのモノ。

ド田舎出身の私の母は、そういう日本古来の風習を良く知っているので、お祭りはダメだと私に言うのだった。お祭りといっても、ただ屋台に行くだけなので、神道も神社も何も関係ないのだが。

そもそも、両親は大人になってからエホバの証人になったので、自分の子どもの頃はお祭りを楽しみにしていた側。私は、小学生くらいになると、そういう両親の矛盾に苛立つようになる。

小学校に入ると、さらに自分が普通の家の子どもではないという意識が強くなる。小学校の同級生は皆、幼稚園や保育園からの幼なじみであり、私だけが幼児教育を受けていなかった。

さらには、校歌や国家が歌えない。給食の前に合掌できない。逆に、食事の前にはキリスト教スタイルでエホバに祈らなければならないという変態度合い。

この頃には、自分の家が変なせいで、特別に不幸な目に遭っていると思い始めた。

エホバの証人の教理はこう。この世の子たちは、今は楽しそうに遊んでいるのだが、将来ハルマゲドンで死ぬ。エホバの証人の子どもはハルマゲドンを生き残り、楽園でおとなしくなったライオンやトラと一緒に遊んで暮らせる。

「だから、親とものみの塔協会の言うことを聞いて、エホバの証人の集会に通いなさい」と。

そう教えられたところで、そんなモノは何の関係もなかった。「オレは今遊びたいんだ」と、思っていた。『今』を抑制されて、小さな子どもが楽しいわけがない。

たった今、この現時点で興味関心、好奇心の対象を遮られる。子どもの成長の芽を摘む行為。興味があるから熱中できる。面白いから、日が暮れるまで集中して遊んでいられる。

そういったモノをすべて制限され、しょーもないものみの塔誌を押し付け、集会の予習を強要された。

エホバの証人の親たちはこの押し付けの責任を取ることになる。

私はいつかエホバの証人をやめてやると子どもの頃から思っていたし、早く親から離れたかった。

そして、私は大人になり、エホバの証人をやめる。ものみの塔の予言解釈は当たらず、信者は高齢化し、日本のエホバの証人は弱体化する一方。

私の両親もマインドコントロールが解けてエホバの証人をやめた。そして、自ら、過去のツケを支払っている。私は年老いた両親をいたわることも面倒を見ることもない。一家離散したまま。

経済的にもっと余裕が出来れば、年取った両親の老後を考えないでもないが、現状、その余裕は私にはない。

曲がりなりにも養い、大人になるまで育ててくれたことに感謝はしている。それでも私がこんなにも両親に対して冷たいのは、子どもの頃のことをいまだに許せていないからなのかも知れない。