エホバの証人をやめたパチスロ好きな親子
かつて私の父はエホバの証人の長老だった。長老というのは、エホバの証人の100人程度の会衆の責任者のこと。
父は、エホバの証人をやめた後、母と離婚し家を出る。その後、あてもなく放浪し、ひたすら西へ向かい九州に流れ着いた。
所持金はほぼ無くなり、何も食べられず泊まる場所も無く、もう死ぬしかないという状態に。そして、最後の金でパチンコ屋へ入る。この金が無くなったら死のうと決めて。
最後の最後にパチンコ屋にたどり着くあたりが親子なのかも知れない。私も、父との再開の数年前、新卒で入社した会社で5年働いた後、退職し本気でパチプロになろうとしていた。
エホバの証人という無謀な生き方をしている人を何千人も見てきて、人は何とかして喰っていくだけならできると分かっていた。エホバの証人は学歴も職歴も欲せず、定職にもつかないが、飢えて死んだ信者は見たことがない。
エホバの証人2世として生まれてしまった私の生は、どうせろくなモノじゃない。今さら、世間的な地位や名声を必死に追う気にもなれなかった。
私は、ハルマゲドンで死ぬまでサッカーをやり尽くしたいという激烈な意思でエホバの証人をやめた。しかし、このとき既にサッカーには飽きていた。
また、エホバの証人の洗脳が解けてハルマゲドンは来ないと知った。そんな元エホバの証人2世の適当な生き方。
ハルマゲドンが来ないのなら意外と人生は長い。生き方を見定めないといけないと私は思い、パチプロへ転向した。
パチプロという世間に依存しないアウトローな生き方は、「いかに反エホバであるか」という私の求めていた生き方にマッチしていた。
しかし、父はエホバの証人のマインドコントロールが解けて、何もかもが取り返しのつかない状態であることを悟り、命がけのパチンコを死ぬ気で打っていた。
これは私がフラフラとサラリーマン兼業のセミパチプロからパチプロに転身しようとしていた頃。私の適当さ加減では、セミプロ時代のように勝ち続けることはできず、半年ほどで仕事を再開せざるを得なくなった。
時を同じくした父の話。
こちらは最後の金を握り締めたカツカツの勝負。これで負けたら死ぬと決めた鉄火場。父は最後のパチンコで大勝する。しばらく生き延びられるほどの金が天から降ってくる。
そうしてまた所持金が無くなり、やはり死のうと考える。ここでまた最後のなけなしの金でパチンコ屋へ行く。これがなぜか負けない。パチスロ台の奇跡ともレアな確率の大当たりを引き当て、生き延びる。
こんなことが数回あったと父は言う。
永遠の命は輝かず人生の真理は絶望の淵にある
目の前で元気そうな顔でこんな話をしているから、パチンコ好きな親子としては笑い話で済んでいるのだが、本当は、父は死に場所を探していた。ものみの塔というカルトにすべてを奪われた絶望から、死に至ろうとしていた。
しかし父は死ななかった。死ねなかった。とにかく何かに押し留められるように、あと一歩のところで現世に踏み留まった。いまだ死ぬべき時ではなかったということだろう。
本当に生きていてくれて良かった。7～8年ぶりに再会したこのとき、私はそう思った。
絶望の淵に立たされた元エホバの証人は自殺衝動に駆られる。しかし、人生の真理はその絶望の淵にある。若さや時間という絶対に取り戻せないモノを含めて、何もかもを失っても、人生は生きていくだけの価値がある。
なぜならものみの塔に支配されない生き方こそが、本当の人生であり真実だから。真実には価値がある。
人生は儚く短い。永遠の命などありえない。それがものみの塔が語らない人生の真理。吹けば飛ぶような微かな命の灯し火だからこそ、時には大きく輝く。
人生は残酷で良いことや救いなど何もない。時にそう思えるのも人生の真理。それでも生きる価値の無い生命など、この世に存在しない。
この世に生を受けたからには、もはや神にもその命を滅ぼす権利は無い。
全ての羊たちへ
父は、死の淵に何度も迫ったが、そこから奇跡的に生還する。これだけしか話さないと、おバカなエホバの証人たちなら、「まさにエホバ神の救い」などと言い出しかねない。
本当に神がいるのなら、父は神に救われたのかも知れない。奇跡としか言えないことが起こったから。ここ一番のパチンコで何度も連続して勝ち続けるというのはまさに奇跡。冗談のような話だが事実。博打好きな神様にしかできないこと。父を生かしてくれたのはやはり神なのかも知れない。
ただ、その神はものみの塔が存在を主張するエホバという神でないことは明らか。ものみの塔はギャンブルを認めていないし、離婚、喫煙と戒律に反し続けた父が、エホバに救われるいわれはない。
父は、放浪し死にかけるというひどい目にあった。これをエホバの証人に言わせれば、真理から離れた結果ということになる。しかし、元々はエホバの証人や王国会館に近づかなければこんなことにはならなかった。
家から家を周り、さらなる犠牲者を増やし続けるエホバの証人は危険な厄病神。しかし、彼らも無知で騙され、搾取されている被害者。まさに取って喰われるだけの羊を責めてもどうしようない。
エホバの証人の上層部で権力を掌握し、羊たちの寄付金や労働力を吸い上げている組織そのものが悪の権化。その筆頭が統治体という老人集団。羊たちを騙すために二枚舌を使い分けることも厭わない偽善者たち。
この搾取と欺瞞がシステム化されたものみの塔にこそ鉄槌が加えられるべき。この思いで私はこれを書いている。さらに
- 1人でも多くの無垢の羊たちがものみの塔から開放されること
- 彼らが人生の本当の意味を知ること
- これから地獄の日々に足を引きずり込まれそうな人々へ警鐘を鳴らすこと
- エホバの証人をやめたもののいまだ深く傷付いている人々への何らかの助けになれば
こういった思いで、私の経験を拙い文章で書いている。
ものみの塔は信者に隣人愛を抱くことを要求しているのに、王国会館に溢れているのは愛でなく嫉妬と上辺だけの社交辞令。排斥され会衆から追い出された人々への仕打ちは無残。目が合っても挨拶すら許されないという幼稚さ。それは愛を抱くべきキリスト教組織の態度ではない。
すべてのエホバの証人よ。目ざめよ！自分の意思でモノを考え、王国会館から脱け出そう。あなたが崇拝しているのは神エホバではなく、ものみの塔という組織、ものみの塔という偶像。
遅すぎることなどないカルトからの脱出
エホバの証人をやめる過程で私の家族は崩壊した。私の戻る家は無くなり、父は、国内を彷徨う日々の中で、無一文になって死を選びかけた。
私の父は、そんなギリギリの生活がたたって高熱を出して倒れ、本当に死にそうになった。生きたいという人間本来の無意識の欲求と、死んでしまいたい絶望とが父の中で交錯していた。
現在の父は、その病気の時に知り合い介抱してくれた女性と一緒に暮らしている。その女性は当時すでに夫と死別。その女性の子どもの一人は、警察沙汰になるような悪い友人と付き合いがあり、それを断ち切るために父は奔走したという。
エホバの証人の長老は、会衆内の信者の個人的な問題を解決することはできない。私の父もそうだった。教団組織に殉ずる長老のような”特権”階級は、上からの”内密”文書の指示に従順に従うだけ。会衆内の信者一人一人に対し、生身の人間として接することができない。
エホバの証人のときには叶わなかった一人の人間として誰かに生身で接するということ、さらにはその人々の助けとなること、父はエホバの証人をやめたあとでこれを成し遂げた。宗教家とはとても言えない、人間的には未熟なエホバの証人の長老には決してできないこと。
これがこの後の父の生きる糧となった。ものみの塔のマインドコントロールから解放され、自分の意思でモノを考え、自身の行動を自ら決定することができるようになっていった。
父には弱い部分もあったが、一人息子の私から見ると、男として立派で強い部分を多く持っていた。とても頼りになるかけがえのない存在だった。
ものみの塔に一家まるごと侵食されたせいで、私の家族は崩壊したが、それでも父に対する男としての評価は揺らいでいない。父が母を捨てて家を飛び出した今でも同じ。
人はいつでもやり直せる。ましてや真面目で強い私の父のようなタイプの人間ならば当然。その生真面目さがものみの塔に付け込まれる一因ではあったのだが、人は失敗しつつ学び、前進していくしかない。
ものみの塔崇拝という罪を悔い改めるのに遅すぎることなどない。死の間際でも良い。一瞬でも楽園での永遠の命という幼稚な希望に疑いが生じたのなら、すぐにこの宗教が原因で仲たがいしている家族に詫びるべき。
あなたの命はこれ一度限り、死ぬまでにやるべきことやるしかない。
エホバの証人に出会うのは必然的な不運
父は会衆内の個人の問題を解決するということをエホバの証人の長老としては果たせなかった。しかしエホバの証人をやめた後ではこれを実現することができた。
父が母と離婚し別の女性と一緒に暮らしていたときのこと。その女性の子どもは友人関係に大きな問題を抱えていた。未成年の初犯ながら実刑を受けるほどの重犯罪に手を染めることになった友人がいた。
これが本来の友人であれば問題にもならなかったのだが、実際には脅されて付き合わされていた。私の父親はその悪友との交際関係を断ち切るべく交渉にあたった。
父は、私にとって勇気と責任感を持った強く格好良い人だった。ものみの塔にさえ関わらなければ、それを体現し続けることができた。
私が自動車事故を起こしたときに相手が運悪く暴力団関係者だったことがある。父はその事務所へ一緒に謝りに行ってくれた。傷がついた高級車を買えと言われ、私の父は誠心誠意謝るとともにしっかりと断ってくれた。
この頃の私は両親よりも先にエホバの証人をやめていて、エホバの証人組織第一という両親の価値観とは圧倒的に相違があった。それにも関わらず父は1人の親として私の問題を解決してくれた。母も父と同じだった。私がエホバの証人をやめたあとでも普通の母親として家を出るまで接してくれた。
家族全員がものみの塔のマインドコントロールに陥り、家庭が崩壊するという不運には見舞われたが、私は恵まれた両親のもとに生まれてきた。歴史にもしもはないのだが、エホバの証人にさえ出会わなければ、こんな運命をたどらなかった。
しかし、エホバの証人は必ずあなたの元にやってくる。家から家を誰一人として漏らさないようにして巡っているから。エホバの証人は住宅地図を一軒一軒消し込みながら巡回している。エホバの証人に出会う不運は必然。誰もがエホバの証人に出会ってしまう。
こってりとマインドコントロールされたエホバの証人は、間違いのない善行のつもりで熱心に勧誘活動を行う。その布教活動はおせっかいで無意味で何も生み出さない。新たな信者の発掘は、ものみの塔というカルトを潤すだけで何も生産しない。彼らのボランティア活動は平和な家庭の破壊活動。
もうすぐ40才という今でも、私はエホバの証人2世だった頃の夢を見る。両親に王国会館に連れて行かれるのを拒否しようとしているのだが、なかなかそれを言い出せないというシビアなシチュエーション。
夢の中の私は、再び家から家へと周る伝道奉仕活動に出かけている。見知らぬ家の呼び鈴を鳴らす恐怖を、私はいまだに夢の中で味わっている。
私のエホバの証人2世としての過去は、今でも完全に清算できたとは言えない。むしろどこかで折り合いをつけて行くべきことなのかも知れないと考えている。
3度の奇跡的生還と生かされるということ
私は、3度も自動車の全損事故を起こしている。その都度、奇跡的に生き残ってきた。これには何らかの意味があると思っている。私は3度ともまだ死ぬべきでは無かったということだろうと。
こんなスピリチュアルな考え方をするのが、ものごとを信じ込みやすいエホバの証人チックな性格だとも言える。しかし、私の父にも同じような経験がある。
父は、私に続きエホバの証人をやめた。そしていまだエホバの証人だった母との関係がこじれて、私の家族は崩壊。一家離散した後、父は国内を放浪する。その放浪中に何度か一文無しになって、死のうとする。しかし、最後のなけなしの金でパチンコ屋へ入る。すると必ずフィーバーし、命を救われる。
父の死期もその時では無かったということだろう。そうして、それぞれ生き残ったことによって、私と父は数年ぶりに再会することができた。
人は誰しも何らかの役目を持って生まれて来ている。私が何度も生き残った理由、それも何らかの使命を担っているからだと私は思っている。それはエホバの証人をやめて以来、私が目を背け続けてきたことに関係している。
私はエホバの証人をやめてからは、かつてエホバの証人だったことを周囲に隠し、自分でも忘れようとしてきた。自分の人生の恥部であると思ってきた。しかし、エホバの証人の2世だったということを見つめ直さなければならない時期が来たと考えている。
エホバの証人の2世信者だったこと、そしてそこから自分の意思で離脱したこと、いまだにものみの塔の支配下にある被害者たちに何かを伝えること、それが私の使命。瀕死の洗脳状態から生還した私の役割。
3度も大きな交通事故を起こして、それでも生き残ったのは、このためだったと、今の私は考えている。
続きは、11.宿命
