エホバの証人の二世のたった一球でのゲームセット
私はほぼ生まれながらにしてエホバの証人の二世信者として育てられた。父親は会衆の長老で、母親はものみの塔協会の正規開拓者。エホバの証人で言うところの神権家族。筋金入りの洗脳家庭。
とあるエホバの証人の野外集会のときの話。エホバの証人の集会と呼ばれる集まりは、ほとんどが王国会館という建物で行われる。ただ半年に一度だけ、日曜日の集会が”レクリエーション”を兼ねて屋外で行われる。これが野外集会。
この野外集会をエホバの証人2世の子供たちは心から楽しみに待ちわびている。普段は羽を伸ばして遊ぶことが全く出来ないから。短縮版のものみの塔誌の討議が終わると、持ち寄った昼食を食べて午後からは”レクリエーション”の時間。この日だけは午後からの布教活動もお休み。
我々エホバの証人2世の子供たちは、ものみの塔誌の討議が終わった瞬間に野球を始めた。他の信者が昼食の準備をしているほんの僅かな時間が待ちきれなかった。そのプレイボールの第一球目を私がジャストミート。
ボールは大きく飛んでいき、昼食の準備をしていたエホバの証人信者たちのど真ん中に突き刺さった。とある女性信者の頭をかすめるのが遠目にも見えた。ホームランとはそういうもの。運良く誰にも当たらなかったのだが、軟球とは言え命中していたら多少の怪我は免れなかったようにも思われた。
エホバの証人2世の子供の本当の願い
このホームラン性の好打撃のせいで、私は父親にしこたま怒られることになる。充分に距離をとって野球をしていたなどという言い訳は一切通じなかった。手加減してバットを振れってか?どうしようもない事故。そもそも誰もケガをしていないので事故にも至っていない。
そんなこともお構いなしに私は父親に散々に怒られる。父は会衆の長老だったので、守るべき信者たちに危険が及んだのに我慢がならなかったらしい。しかもその加害者寸前の張本人が長老である自身の実の息子。
私がこっぴどく怒られているのは、長老としての体面を守るためだというのを子供ながらに何となく感じた。
その場で野球は中止させられ、昼食後の野球にも私の参加は禁止。昼食前に父親に怒られ、午後からも待ちわびていた野球が出来ない。私は泣き出したい気持ちだった。そして大きな違和感を覚えていた。
私の父親は私たち家族だけのものではない、そういった感覚。充分に愛情を注がれて育てられていることは良く解っていた。しかし、その親子関係よりも上位にエホバの証人組織が置かれていた。
子供の私は父親にただ褒めて欲しかった。あんな奇跡的なホームランを打てるようになったということを単純に父親に褒めて欲しかった。「すげーボール飛んだな。でも危なかったな、誰もケガしなくて良かったな」じゃダメだったのか?
“エホバの証人2世のたった一球でのゲームセット” への1件の返信