カルトに神は存在しない
『みんなの宗教2世問題』5章「宗教2世はいかに描かれてきたか」。
村上春樹『1Q84』より。エホバの証人がモデルの「証人会」という新興宗教が出てくる。
『みんなの宗教2世問題』著者による『1Q84』と村上春樹の総括。
村上は、それらの自分が真に憎んでいるものに対しては、明らかにそれが悪の属性を持つものと印象づけながら創作し、エッセイを書き、小説で読者に語る
ここで村上春樹が憎んでいるモノというのは、伝統的な家父長制や日本の文壇のことらしいのだが、村上春樹ってそんなだったっけ?そんなのは古くさいぜって軽く吹き飛ばしてる作風だった気がするんだけど・・・
ところが宗教問題が絡むとなると、とたんにそれを単純な悪と決めつけるのをやめて、善悪の彼岸をめざそうとする。それは結局、この作家がカルト宗教というものを父権制以上の悪としてリアルに把握できないからではないのか、という疑いをもたらす
『1Q84』のラスボス教祖として麻原彰晃のホンモノみたいな奴が出てくる。ホンモノというのがどういう意味なのかは原作を読まれたし。
この教祖があり得ない描写をされているところからして、村上春樹はカルトの本質を分かっていないのか?
つまり、善悪の彼岸をめざしちゃっている。超越したモノ、つまり神のようなモノがカルトにもいるとイメージしている。要するにホンモノだと。
カルトはニセモノなので、この場合は村上春樹の誤認ということになる。つまり、カルト宗教をリアルに把握できていない。
とてつもない邪悪な存在としてのカルト
それとも、カルトをもっと違うモノ、悪だが強い力を持ったモノとしてイメージしているとしたら?
例えば、村上春樹の初期作品シリーズに出てくる邪悪な「羊」のようなモノ。カルト教団の教祖集団エホバの証人の統治体みたいなおバカではなく、カルトを巨大な力を持った、邪悪な存在として捉えているのなら。
エホバの証人の統治体はただの腐ったオッサン集団。とはいえ、全世界に800万人の信者奴隷を抱え、彼らの人権を侵害し人生を搾取する権力者。その権力や邪悪さを、『1Q84』のラスボス教祖のあり得ない生態として描いているのなら、正しい表現と言える。
ラスボス教祖の禍々しい能力とエホバの証人の統治体に集中する権力を類似させて描いているのだとしたら、正解。
偉そうに書いちゃったけど、『1Q84』を読んだのがかなり昔で、私自身の記憶が定かでない。
私の中では、いつの間にか「証人会」のラスボス教祖として麻原彰晃チックな奴が出てくる設定になっていた。さすがに少しはリサーチしてこの記事を書いているので、この誤解は解けている(作中「証人会」は登場人物の出身教団にすぎないはず。「証人会」を倒しすぎたくて、私の記憶が錯綜している?)。
当時、ラスボス教祖の描写に違和感を覚えたのだけは強く覚えていて。もしかすると、今回その答え合わせができたのかも知れない。いずれにせよ再読したい1冊(実際は文庫で6冊あるんだっけか・・・)ではある。
山羊男
カルトはカルトと宗教バッシングできる国に戻れ、そして『説得』。